
アトランティック・レコード設立60周年を記念して、このところ同社が世に送り出した名盤の紙ジャケ化が進んでいる。レコード会社が節々に記念盤をリリースするのは大変よいことで、僕もかつて同社の40周年を記念してリリースされた「アトランティックR&B」シリーズでR&Bの魅力に気づかされた一人だし、僕より一回りくらい年長の音楽ファンに話を聞けば、同社がアナログ時代にリリースした「History of Rhythm and Blues」シリーズで開眼した、なんて話題も出る。恐らく今回の再発シリーズで初めてアトランティック・レコードの音楽に触れ、その後の人生を大きく狂わされる(?)10〜20代の音楽ファンも少なからず出現するのではないかと思う。先日このアトランティックの紙ジャケシリーズを出している会社の方にお会いする機会があり、「来年は絶対ワーナー・ブラザーズ50周年企画をやってくださいねっ!!」と脅迫に近いお願いをしてきた・・・。
先月の「レコード・コレクターズ」誌のアトランティック特集では紹介されていなかったが、同社40周年の際にはR&Bだけでなく様々なジャンルの音楽を回顧するコンピレーションがリリースされており、中でも印象的だったのが「The Erteguns' New York Cabaret Music」というボックス。アトランティックの創業者であるアーメット&ネスヒ・アーティガン兄弟はトルコ大使館員の息子で大変な遊び人、夜な夜なニューヨークのクラブを遊び歩き、そこで出逢った有名無名のクラブ・シンガーたちのパフォーマンスを録音したテープが同社の財産となっている。実際に僕がこのボックスを手に入れたのはリリースから何年もたった90年代のことで、偶然ワゴンセールで見つけたものだったが、数多い収録曲の中でもひときわ強いインパクトがあったのがカーメン・マクレーが歌う「I'm Always Drunk in San Francisco」という曲。“アタシはいつもサンフランシスコで酔っぱらってんのっ!”と強烈な調子で始まり、最後に“お酒なんて一滴も飲んでないのにっ!”で締められるこの曲はもの凄く印象的で、以前からエラく気になっていた。今回この曲が収録されている「Portrait of Carmen」が紙ジャケ化されたので、この機会に彼女の作品を紹介しておこうと思う。「Portrait of 〜」のリリースは1967年。この時期の彼女はスタンダード・ナンバーと並行して当時のコンテンポラリーな作品も意欲的に取り上げており、ポップスファンにも非常に興味深い作品を残している。同作では例の「〜 San Francisco」の他にはボブ・リンドの「Elusive Butterfly」、他で名前を見かけないので正体がよくわからないDenise Di Noviなるソングライターによる「My Very Own Person」と「Boy, Do I Have A Surprise for You」の4曲がそれに当たるのだが、この前後に発表された作品にはより興味深い作品が数多く収録されている。今回の主題はこちらの方。

まずは67年の春に録音された「For Once in My Life」、これがいきなり凄い。表題曲はスティービー・ワンダーなどのヒットで知られる曲だが、これは幾分クラシック・ポップ的雰囲気をたたえているので違和感はない。しかし驚かされるのは「Don't Talk」と「I Just Wasn't Made for These Time」の「Pet Sounds」ナンバー2曲の収録、これが素晴らしくて暫く何回もリピートして聴き続けていたくらい。他にもバフィ・セント・メリーの「Until It's Time for You to Go」、バカラック・ナンバー「The Look of Love」、更にビートルズの「Got to Get You into My Life」と、どれも大変ユニークな仕上がり。
続いて翌68年にかけて録音されたのが「The Sound of Silence」、表題曲はいわずと知れたサイモン&ガーファンクル・ナンバーで、これ自体はちょっと荒っぽい録音で感心しないが、他にはジミー・ウェブの「McArthur Park」、デラ・リーズなどのヒットで知られる「And That Reminds Me」が素晴らしく、驚くことには「Don't Go Away」「Can You Tell」とマーゴ・ガーヤンの作品が2曲取り上げられている!一体どういうコネクションで彼女の作品がマクレーに渡ったのだろうか?不思議でしょうがない。
この“コンテンポラリー路線”の最後になったのが、69年に大半が録音されたアルバム「Just A Little Lovin'」。これはマイアミ録音でプロデュースはアリフ・マーディン、バック・ミュージシャンはディクシー・フライアーズというもはやジャズの範疇を超えた作品で、知られざる名盤といっていいだろう。表題曲はダスティ・スプリングフィールドも録音していたナンバー(更に「Breakfast in Bed」も収録)で、曲の共通性もあるがこのアルバムはダスティの「Dusty in Memphis」とアレサ・フランクリンの「Rock Steady」を足して2で割ったような雰囲気を持っている。他にはビートルズの「Here There and Everywhere」「Carry Thst Weight」「Something」、トニー・ジョー・ホワイトの「I Thought You Knew Well」「I Want You」、スパイラル・ステアケースの超スウィンギーな「More Today The Yesterday」、ローラ・ニーロの「Goodbye Joe」・・と、全曲書き出してしまいそうなくらい素晴らしい内容。ジャズファン以外のリスナーに、幅広く存在を知って欲しい作品である。
文章が長くなったので、いい加減終わりにしたくなってきた。あとひと頑張りしてアトランティックとは何の関係もない1枚、ディオンが1968年にリリースしたセルフ・タイトルアルバムが久しぶりに再発されたので紹介しておこう。60年代半ば〜後半にかけてドラッグ問題に悩まされキャリアを中断していたディオンが古巣ローリーと再契約し「Abraham, Martin and John」が起死回生のヒットとなったこのアルバムが最初にCD化されたのは1994年のことで、あれから10年以上たってしまったことになる。個人的にこのアルバムは本当に好きな作品で、醸し出される“アシッド感”がたまらない。表題曲もいいが特に好きなのがジミヘンの「Purple Haze」をアシッド・フォーク調に料理したバージョンで、これは何度聴いてもいい。
他にも彼が敬愛するボブ・ディランとフレッド・ニールの作品をメドレーにした「Tomorrow is A Long Time/Everybody's Talkin'」、レナード・コーエンの「Sisters of Mercy」、何故かフォー・トップスの曲を取り上げている「Loving You is Sweeter Than Ever」、どれも大変味わい深い。こういうアルバムはいつでも入手出来るよう、今後は廃盤などにせずプレスし続けて欲しいものだ。あとは彼が64〜65年にかけていち早くフォークロックに取り組んだアルバム「Wonder Where I'm Bound」の紙ジャケ化、ディオンに関してはこれだけが残された課題だろうか?
