
60年代イギリスのマイナーバンドもののCDを追いかけていると本当にきりがないので、出来るだけ手を出さないように気をつけているのだが、どうしても気になるものは購入しない訳にいかない。それにしてもイギリス人ってのはどうしてこんなに成功しなかったバンドのマスターテープを大量に保管しているんだろう?後世の音楽ファンとしては有り難い限りではあるのだが「いっぺんオマエらに『超整理法』を伝授してやろうか??」という気持ちがもたげてくる瞬間が、この手のCDを聴いていると度々ある。
最初の1枚はごちゃごちゃと書いてあるが、一言でいえばロブ・フリーマンとイアン・マクリントックという2人のソングライターの活動を追ったコンピレーション。2人はまず「ジ・アザーズ」というローリング・ストーンズタイプのR&Bバンドで64年にデビュー、ボ・ディドリーの「Oh Yeah」のカバーをリリースしたが全く話題にならずその名の通り「その他大勢」扱いのまま解散。続いてメンバーを入れ替えて結成したのが「サンズ」で、このバンドはライブの評判を聞きつけたブライアン・エプスタインの口利きで彼のマネージメント会社「NEMS」と契約に成功、同社が管理していたギブ兄弟(ビー・ジーズ)の作品「Mrs Gillespie's Refrigerator」で再デビューを果たした。
このシングルのB面に収められていた「Listen to The Sky」は2人の自作曲で、曲の後半で突然ホルストの「火星」がギターで奏でられるというサイケな作品。出来はなかなかよかったのだがシングルがリリースされるちょうどその頃エプスタインが急逝して彼らは再び契約を失い、その後ソングライター・コンビとしてレコード会社に売り込んだのが架空のグループ「サン・ドラゴン」。話が長い。彼らが最初に指示されたのは皮肉にも他のアーティスト作品のカバーで、当時まだイギリスでリリースされていなかったレモン・パイパーズの全米ナンバー1ヒット「Green Tambourine」をリメイクしたところこれが全英チャートに登場するヒットに(最高50位)。これに乗じて制作されたのがサン・ドラゴン唯一のアルバムで、このCD収録曲のメインを占めている。マクリントックとフリーマンのペンによる作品が大半を占めるこのアルバムは“バブルガム・ポップ”としてよく出来ており、カバー曲の方もレモン・パイパーズの「Blueberry Blue」、バーズの「So You Wanna Be A Rock 'n' Roll Star」、アソシエイションの「Windy」いずれもなかなかの内容。価値あるポップ・サイケアルバムの再発見にまずは感謝したい。
サン・ドラゴンのプロジェクト終了後も2人は様々なユニット名でレコード制作を続けており、1970年に我が国で「涙のフィーリング(Old Fashioned Feeling)」がヒットしたハイ・ヌーンの正体も、実はこの2人なのだという。残念ながらこのCDに「涙のフィーリング」は収録されなかったが、そのB面に収められていた「Drivin' Drivin'」を聴くことが出来る。もう1枚の方は60年代半ばに活動したバンド「ミラージュ」。彼らはイギリスの大物パブリッシャー、ディック・ジェイムスに見出され、彼が手がけていたホリーズのアラン・クラークとグラハム・ナッシュのプロデュースの下65年に「Go Away」のシングルでデビューを果たしたが、今回はそこら辺の音源は収録されず(この曲のナッシュとともに制作したデモ録音は収録)、彼らがフィリップスからリリースした3枚のシングルと、これまで未発表だった17曲(!)のデモ録音を1枚のCDに収めた超マニアック盤。彼らの音楽スタイルは中期ビートルズそのもので、シングルとして「Tomorrow Never Knows」をカバーしているくらい。「サージェント・ペパーズ」以前のビートルズが好きな音楽ファンであれば、この手の音楽はたまらないものがあるだろう。なおこのグループのメンバーの1人、ディー・マレイはディック・ジェイムスつながりでエルトン・ジョンと知り合い、その後彼のバンドのベーシストとして長く活躍することになるそうだが、そんな情報でこのCDに興味を持つ人なんて、僕の知り合いでも1人しかいないか。とにかくもの凄ーく狭い範囲の音楽ファンには非常にアピールする1枚だが、誰にでも薦められる内容でないことは確か。

