
今回は先週までビルボードチャートのナンバー1を記録していたアルバムの紹介。現在アメリカの映画界は賞シーズンの真っ只中で、中でも今年の台風の目になりそうなのが「ドリームガールズ」。1960年代、ビートルズに匹敵する成功を収めた数少ないグループの一つ、シュープリームスの成功物語をベースにしたミュージカル映画で、ゴールデングローブ賞では作品賞のミュージカル/コメディ部門に加えエディ・マーフィーが助演男優賞を、ジェニファー・ハドソンが助演女優賞を獲得。アカデミー賞でも6部門にノミネートと、この手の映画としては異例の高評価を得ている。
「ドリームガールズ」は1980年代初頭に制作されたブロードウェイ・ミュージカルが下敷きになっており、日本でも当時上演されたことがある(僕もTVスポットを観た覚えがある)。シュープリームスにはブレイク前にモータウンの戦略により、リード・シンガーがフローレンス・バラードからダイアナ・ロスに挿げ替えられるという有名なエピソードがあり、「ドリーム〜」はそれを軸にグループの成功物語や、急激な成功に翻弄されていく周囲の人間たちの模様を描いた内容となっている。映画ではダイアナ・ロスに当たる役をビヨンセが、ベリー・ゴーディ・ジュニアをジェイミー・フォックスが、彼らの成功のきっかけを作るアーティスト(ジェイムス・ブラウン風だが、モータウンとの関係を考えるとジャッキー・ウィルソンなのかもしれない)をエディ・マーフィーが演じており、考えうる限り最高のキャスティングを実現させた印象。しかしこの映画をさらってしまったのはこの三者の何れでもなく、悲運のメンバー、フローレンス・バラード役を演じた新人ジェニファー・ハドソン。
とにかくジェニファー・ハドソンの歌が素晴らしい。幸運なことに試写会で観ることが出来たのだが、映画の設定上あのビヨンセを「歌は今いちだけど、ルックスがいいからメインに据えた」だけの女の子にするには、ハドソンの歌はそれなりの説得力がなければいけないのだが、彼女はその要求に見事に応え、というかそのレベルを遥かに凌ぐボーカルを聴かせてくれている。彼女の“古式ゆかしい”R&Bマナーのボーカルや、やがてメインの交替により次第にクサっていく様子、終いにはその素行不良を理由に解雇を通告され、必死にグループ残留を懇願する「And I Am Telling You I’m Not Going」、80年代にブロードウェイで上演された際にもジェニファー・ホリデイの素晴らしい歌声とともに全米チャートのTOP40に飛び込んできたこの感動的なバラードを歌うシーンでは思わず涙がボロボロ・・。現実のフローレンス・バラードはグループ脱退後アルコールとドラッグ漬けの生活を送り70年代に命を落としてしまうが、映画の彼女は見事に立ち直り意外なハッピーエンドを迎える点に、ちょっと救いを感じた。ハドソン以外のキャストについては、まずはビヨンセの美しさ。彼女の「ダイアナ・ロスコスプレ」は本当に楽しめ、たとえこの映画の本当の主役が彼女ではないとしても、ビヨンセのファンには十分満足のいくものだと思う。あと彼女が所属していたデスティニーズ・チャイルド、あのグループも彼女(及び彼女の父親)の思惑で次々とメンバーの首が挿げ替えられていった歴史があり、それと映画を重ね合わせみても面白いかもしれない。そして自分が果たすことのできなかったキャリア・アップを次々に実現させた“後輩”ジェイミー・フォックスに対するエディ・マーフィーの秘めたる対抗意識、なんて視点で映画を観ても楽しめるかも(今回の各賞受賞には、エディ陣営は喝采をあげていることだろう)。
おっと、サントラの話をまったくしていなかった。今回紹介のCDはデラックス仕様の2枚組で、映画で使用された音楽の殆どを、細かいパートまで含めて収録。残念ながら60年代のモータウン・サウンドを再現、という訳ではなく多分に70〜80年代テイストではあるが、あまり気になるものではない。とにかく映画「ドリームガールズ」、2月の半ばに公開が始まったら是非とも映画館に足を運んでご覧になっていただきたい作品である。ハドソンの歌がもし気に入ったら(いや、絶対圧倒されるはずなんだけれども)最後のクレジットで彼女がドラム・ロールとともに紹介されるところがあるので、盛大な拍手を送ってあげてください。僕ももう1回観に行って、もう1回泣いてこようかな・・。

