
エレクトリック・インディアンの「Keem-O-Sabe('69米16位)」というちょっと変わったインスト曲をご存知だろうか。1960年代後半のヒットチャートは何故かインディアン流行りで、カウシルズの「Indian Lake('68米10位)」、後にレイダースがリバイバルさせるドン・ファードンの「(The Lament of The Cherokee) Indian Reservation('68米20位)」、1910フルーツガム・カンパニーの「Indian Giver('69米5位)」などがチャートを賑わせたが、ヒッピー・ムーブメントの盛り上がりが「自然回帰」の気運を高めたのか、この曲も異例のヒットに。エレクトリック・インディアンは殆ど一発で終わったプロジェクトだったので、当時グループの詳細について公にされることはなかった(というか公にしたところであまり意味がなかった)ようだが、後にこのグループは非常に興味深い人々の集団であったことがわかってくる。
「Keem-O-Sabe」を作曲し、レコーディングを取り仕切ったのはレオナード・ボリソフという男。彼は「レン・バリー」としてより高い知名度を得ており、60年代前半はフィラデルフィアのカメオ/パークウェイからダンス・グループ「ダヴェルズ」のリード・シンガーとして「Bristol Stomp('61米2位)」「You Can't Sit Down('63米3位)」といったヒットを放ち、グループ独立後の65年には「1-2-3(米2位)」を大ヒットさせた白人ソウル・シンガー。彼の長年の制作パートナーであるソングライター/プロデューサーのジョン・マダラが運営しているサイト「That Philly Sound」でバリーの貴重な録音を集めたCDが販売されていたので、早速取り寄せて聴いてみることに。レン・バリーがダヴェルズ脱退後にリリースしたソロ・シングルは上のディスコグラフィをご参照いただきたい。今回届いたCDに収録されているのは彼のキャリアのピーク期であるデッカ時代以前にマーキュリーからリリースしていた「Let's Do It Again(曲調は「You Can't Sit Down」に瓜二つ)」に始まり、制作されながら結局リリースされることのなかったデッカのセカンド・アルバムからの何曲か、そしてその後エイミー、セプターと渡り歩いてリリースしたシングル音源までが集められた全19曲で、これまでリリースされているダヴェルズ及びバリーのベストCDと併せて聴けば、67〜68年にRCAからリリースしたシングルを除く彼の60年代音源のかなりの部分をチェック出来るという大変有り難い内容になっている。彼のボーカルは一貫してシャウター・スタイルで、どの時代の録音も余り違和感なく聴ける感じ。セプター時代には「Keem-O-Sabe」のボーカル・バージョンも録音しており、アーティストとしては下り坂にあった彼の執念のようなものが感じられて面白い。
以前ホール&オーツのインタビューを雑誌で読んだ時「レニー(レン)バリーが落ちぶれてフィラデルフィアの街をうろついている姿を見て『俺たちはこうはなりたくないものだ』と思った。」なんて発言をしていて、当時彼らとバリーの間に接点はあったのかな?などと思ったものだが、このCDのセッション・リストを見ると1969〜70年の録音にはなんとダリル・ホールの名前が!ホールがキーボードやアレンジメントを担当する他にも彼と「ガリバー」を組んでいたティム・ムーアの名前も随所で見られ、ここら辺の絡みにより興味のある方はジョン・マダラのサイトでホール&オーツの「The Philly Years」というCDも販売されているので是非ご確認を。カメオ/パークウェイの時代からフィラデルフィア・ソウルが確立されるまでの“サウンドの進化の過程”を確認出来る非常に興味深いCD、しかもその彼が70年にメンフィスのアメリカン・スタジオに出向いて録音した2曲なんて更に珍しいものもあって(出来もなかなか)、色々勉強になる内容である。で、次の「Muthafunkin 〜」は後に「MFSB」と呼ばれることになるフィラデルフィアのミュージシャンたちが、60年代後半から70年代前半にかけて様々な名義で録音したインスト曲を集めたコンピレーション。ユニット名を羅列するとインタープリテーションズ、ブラザーズ・オブ・ホープ、ヒドゥン・コスト、デイリー・ディガーズ、サム・リード・バンド、アライアンス、キューピット、レース・ストリート・チャイナタウン・バンド、フレンチ・コネクション、パット&ザ・ブレンダーズ、アンドゥ・オーケストラ、そしてエレクトリック・インディアン。制作陣にはギャンブル&ハフをはじめノーマン・ハリス、ボビー・マーティン、ヴィンス・モンタナ・ジュニアなどフィリー・ソウル黄金期を支える傑物たちのクレジットがずらり、レン・バリー絡みの録音も「Keem-O-Sabe」他4曲が収録されており、新旧入り乱れた人材がひしめき合ってしのぎを削っていた様子が窺える。「アーリー・フィラデルフィア」のキーワードに敏感に反応するタイプの音楽ファンであれば、探してみる価値のあるCDだと思う。
最後「The Philly Sound Get Down」は更にマイナーなフィリーもののインスト集。このCDは2004年に亡くなったベン・クラス(ジャケットに登場している老人)に捧げられており、フィラデルフィアにある「Krass Brothers Clothing Store」のオーナーである彼は長年地元で本人が登場するTVスポットを流し続けていて、かの地では知らぬものはいないほどの名物オヤジだったそうなのだが、音楽への造詣も深く、60年代には多くのインディ・レーベルの出資者として新興の音楽シーンをサポートしたという(多くのアーティストに衣装も提供したとか)。詳しい録音データが付いていないのだが60年代後半の録音と思われる諸々の作品はまだフィラデルフィアならではの特徴を持つところまでは到達しておらず、ある曲はジェイムス・ブラウン風、またあるものはアイズリー・ブラザーズ風、モータウン風・・といった感じ。どれもファンキーで「レア・グループ」としてはなかなか楽しめるが「フィラデルフィア」のキーワードではちょっと引っかかりにくいかな・・という内容。「Funkadelphia」には更なる貴重な録音の発掘を期待したいところ。
