
先月紹介した細野晴臣のボックスを聴いて、久しぶりに“エキゾチック・サウンズ”というキーワードが気になってきた。70年代当時、既に10年以上前の音楽であるマーティン・デニーなんて聴いていた日本人て、一体どういう経路で情報を入手したのか全く想像がつかないのだが、CDの時代になってからは結構簡単で、恐らく多くの音楽ファンが初めて彼の音楽に触れたのは1989年にリリースされたヤン富田選曲のコンピレーション。90年代に世界的に広まったモンド〜ラウンジ・ブームの先鞭をつける形となったこのCDを入口に、多くの音楽ファンがこの奇妙な音楽の世界に分け入っていった。マーティン・デニーの出世作である「Quiet Village('59米4位)」でヴィブラフォンを弾いていたのがアーサー・ライマン。彼はこの作品の成功の後すぐに独立し(後任は後に「バハ・マリンバ・バンド」で名をなすジュリアス・ウェクターが担当した)、ハイファイ・レコードからデニーを凌ぐ枚数のアルバムを発表し、シングル・チャートでも「Taboo('59米55位)」「Yellow Bird('61米4位)」といったヒットを残している。彼のCDは80年代からかなりの枚数リリースされていて今更珍しくもないのだが、先日発売されたのは彼が60年代にリリースしたシングル音源をコレクトしたものということで、ちょっと興味をそそられて購入してみた。
「Singles Collection」は2枚組全40曲入り。彼はハイファイで30枚以上のシングルをリリースしているためこのボリュームではとても網羅出来るものではなく、また1963年など1年間に10枚ものシングルを出しているので、幅広い時期の作品をカバー、という雰囲気でもない。とはいえシングルならではの作品もあって「Cotton Fields」「Limbo Rock」「Blowin' in The Wind」といった曲はアルバムではなかなか聴けないのではないだろうか。これまでのCDと比較して特に新発見はなかったが、どれが決定版というコンピレーションもなかったので、これから初めてアーサー・ライマンの音楽を聴いてみようという人がいれば、このCDをチョイスしてみてもいいのではないだろうか。
続いてはボサ、というより“それ以前のブラジル・ポピュラー音楽”といった方がいいか。「ボサ・ノヴァ」の存在を世に知らしめたのは1959年にカンヌ映画祭でグランプリを獲得し、我が国でも評判になったという映画「黒いオルフェ」のサウンドトラックと言われているが、これに先駆けて映画の元となった演劇「カーニバルのオルフェ」のためにアントニオ・カルロス・ジョビンとヴィニシウス・ジ・モライスが曲を書き下ろしたのが1956年のこと。イギリスのエル・レコードからリリースされた「Antonio Carlos Jobim and Luiz Floriano Bonfa」は、この「オルフェ」に至るまでにジョビンと映画版「オルフェ」のサントラに多大なる貢献を果たすルイス・ボンファが行った共同作業を27曲詰め込んだもの。ジャケットのポップさに誤摩化されそうになるがこれは相当凄いコンピで、今から50年以上前の「プレ・ボサ」録音が執念深く集められている。最も古い録音は1948年(!)ととんでもない(SP起こしで微妙に音がよれている感じが味わい深い)が、それを除く大半は53〜56年に録音されており、アメリカのジャズやポピュラー音楽に多大なる影響を受けながらも、ブラジルならではのフィーリングを醸し出した音楽は、聴いていて非常に和む。
CDを通して聴いて驚かされるのは、やはりボンファのギタリストとしての卓越した技量。レス・ポール他のギタリストからヒントを得つつ、60年代に入って逆に欧米の音楽界に多大なる影響を与えることになるあのサウンドは、この時点でもう既に出来上がっていたと考えていいのだろう。件の演劇版「オルフェ」のサントラ7曲も収録され「ボサノヴァ前夜」の貴重な記録をたっぷりと味わうことが出来る内容になっている。これは深い。
3枚目のニュー・クリスティ・ミンストレルズは「ジャケガイノススメ」シリーズの一環で日本盤が発売されたもの。「Green Green('63米14位)」のヒットで知られる彼らはメンバーの入れ替わりの非常に激しい“産業フォーク”グループで、その初期にはバリー・マクガイアが、その後にはケニー・ロジャーズやキム・カーンズが参加したことでも知られている。彼らの作品は年を追うにつれフォークからイージーリスニング風に変化していき、60年代半ばには「レイ・コニフ・シンガーズの若い版」的な存在になっていたようだ。今回リリースされたのはコンテンポラリーな作品を集めた66年のアルバム「New Kick!」にシングル音源等12曲を追加したもの(内容は数年前に海外で発売されたものと同じ)。曲により出来不出来の差があり、サンドパイパーズ的な“ソフト・ロック”、またはより刺激の少ないイージーリスニングと、凡庸な“ポップ・フォーク”の間を行ったり来たりしている。ナンシー・シナトラ「にくい貴方」のコーラスは結構斬新でかなり楽しめたが、それに匹敵する出来の曲が少ないのが残念。

