2007年03月10日

The Singles Collection - Arthur Lyman (Acrobat)
Antonio Carlos Jobim and Luiz Floriano Bonfa (El)
New Kick! - The New Christy Minstrels (Sony Music Direct)

The Singles Collection - Arthur Lyman Antonio Carlos Jobim and Luiz Floriano Bonfa New Kick! - The New Christy Minstrels

The Exotic Sounds: The Very Best of Martin Denny ('89) 先月紹介した細野晴臣のボックスを聴いて、久しぶりに“エキゾチック・サウンズ”というキーワードが気になってきた。70年代当時、既に10年以上前の音楽であるマーティン・デニーなんて聴いていた日本人て、一体どういう経路で情報を入手したのか全く想像がつかないのだが、CDの時代になってからは結構簡単で、恐らく多くの音楽ファンが初めて彼の音楽に触れたのは1989年にリリースされたヤン富田選曲のコンピレーション。90年代に世界的に広まったモンド〜ラウンジ・ブームの先鞭をつける形となったこのCDを入口に、多くの音楽ファンがこの奇妙な音楽の世界に分け入っていった。

 マーティン・デニーの出世作である「Quiet Village('59米4位)」でヴィブラフォンを弾いていたのがアーサー・ライマン。彼はこの作品の成功の後すぐに独立し(後任は後に「バハ・マリンバ・バンド」で名をなすジュリアス・ウェクターが担当した)、ハイファイ・レコードからデニーを凌ぐ枚数のアルバムを発表し、シングル・チャートでも「Taboo('59米55位)」「Yellow Bird('61米4位)」といったヒットを残している。彼のCDは80年代からかなりの枚数リリースされていて今更珍しくもないのだが、先日発売されたのは彼が60年代にリリースしたシングル音源をコレクトしたものということで、ちょっと興味をそそられて購入してみた。

 「Singles Collection」は2枚組全40曲入り。彼はハイファイで30枚以上のシングルをリリースしているためこのボリュームではとても網羅出来るものではなく、また1963年など1年間に10枚ものシングルを出しているので、幅広い時期の作品をカバー、という雰囲気でもない。とはいえシングルならではの作品もあって「Cotton Fields」「Limbo Rock」「Blowin' in The Wind」といった曲はアルバムではなかなか聴けないのではないだろうか。これまでのCDと比較して特に新発見はなかったが、どれが決定版というコンピレーションもなかったので、これから初めてアーサー・ライマンの音楽を聴いてみようという人がいれば、このCDをチョイスしてみてもいいのではないだろうか。

Black Orpheus Soundtrack ('59) 続いてはボサ、というより“それ以前のブラジル・ポピュラー音楽”といった方がいいか。「ボサ・ノヴァ」の存在を世に知らしめたのは1959年にカンヌ映画祭でグランプリを獲得し、我が国でも評判になったという映画「黒いオルフェ」のサウンドトラックと言われているが、これに先駆けて映画の元となった演劇「カーニバルのオルフェ」のためにアントニオ・カルロス・ジョビンとヴィニシウス・ジ・モライスが曲を書き下ろしたのが1956年のこと。

 イギリスのエル・レコードからリリースされた「Antonio Carlos Jobim and Luiz Floriano Bonfa」は、この「オルフェ」に至るまでにジョビンと映画版「オルフェ」のサントラに多大なる貢献を果たすルイス・ボンファが行った共同作業を27曲詰め込んだもの。ジャケットのポップさに誤摩化されそうになるがこれは相当凄いコンピで、今から50年以上前の「プレ・ボサ」録音が執念深く集められている。最も古い録音は1948年(!)ととんでもない(SP起こしで微妙に音がよれている感じが味わい深い)が、それを除く大半は53〜56年に録音されており、アメリカのジャズやポピュラー音楽に多大なる影響を受けながらも、ブラジルならではのフィーリングを醸し出した音楽は、聴いていて非常に和む。

 CDを通して聴いて驚かされるのは、やはりボンファのギタリストとしての卓越した技量。レス・ポール他のギタリストからヒントを得つつ、60年代に入って逆に欧米の音楽界に多大なる影響を与えることになるあのサウンドは、この時点でもう既に出来上がっていたと考えていいのだろう。件の演劇版「オルフェ」のサントラ7曲も収録され「ボサノヴァ前夜」の貴重な記録をたっぷりと味わうことが出来る内容になっている。これは深い。

Hits and Highlights 1962-68 - The New Christy Minstrels 3枚目のニュー・クリスティ・ミンストレルズは「ジャケガイノススメ」シリーズの一環で日本盤が発売されたもの。「Green Green('63米14位)」のヒットで知られる彼らはメンバーの入れ替わりの非常に激しい“産業フォーク”グループで、その初期にはバリー・マクガイアが、その後にはケニー・ロジャーズやキム・カーンズが参加したことでも知られている。彼らの作品は年を追うにつれフォークからイージーリスニング風に変化していき、60年代半ばには「レイ・コニフ・シンガーズの若い版」的な存在になっていたようだ。

 今回リリースされたのはコンテンポラリーな作品を集めた66年のアルバム「New Kick!」にシングル音源等12曲を追加したもの(内容は数年前に海外で発売されたものと同じ)。曲により出来不出来の差があり、サンドパイパーズ的な“ソフト・ロック”、またはより刺激の少ないイージーリスニングと、凡庸な“ポップ・フォーク”の間を行ったり来たりしている。ナンシー・シナトラ「にくい貴方」のコーラスは結構斬新でかなり楽しめたが、それに匹敵する出来の曲が少ないのが残念。
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2007年03月09日

Change is Gonna Come: The Voice of Black America 1963-1973 (Ace)
Girls Girls Girls: A Recollection of Dream Dates 1955-1965 (Ace)

Change is Gonna Come: The Voice of Black America 1963-1973 Girls Girls Girls: A Recollection of Dream Dates 1955-1965

 エイス・レコードから届いたコンピレーション硬軟2種。まずは60〜70年代アメリカで盛り上がりを見せた「黒人地位向上」をテーマにしたCDで全23曲。タイトル曲はサム・クックではなくオーティス・レディング版を収録、ヒット曲ではインプレッションズの「We're A Winner('68R&B1位)」、ジェイムス・ブラウンの「I Don't Want Nobody to Give Me Nothing (Open Up The Door, I'll Get It Myself)('69R&B3位)」、シャイ・ライツの「We Are Naighbors('71R&B17位)」、ニーナ・シモンの「To Be Young, Gifted and Black('70R&B8位)」など、ヒットではないがダニー・ハザウェイの超有名な「Someday We'll All Be Free」も収録。ここら辺は他でも聴けるか。珍しいヒットとしてはニッキー・リーの「And Black Is Beautiful('68R&B50位)」なんて曲も聴ける。

Black & Proud: The Soul of The Black Panther Era Vol.2Black & Proud: The Soul of The Black Panther Era Vol.1 同じようなテーマのコンピレーションとしては数年前にヨーロッパのTrikontというレーベルから出された「Black & Proud: The Soul of The Black Panther Era」という2枚のCDがあったが、こちらはそれらとの重複を極力避けた(ダブっているのはギル・スコット・ヘロンの強烈なポエトリー・リーディング「The Revolution Will Not Be Televised」のみ)選曲。結構切実なテーマの曲も幾つかあって、ステイプル・シンガーズの「When Will We Be Paid(賃金はいつ貰えるのか)」とか、白人による黒人搾取の象徴とされる言葉「Forty Acres and A Mule(40エーカーの農地と一頭のラバ:南北戦争で解放された黒人奴隷に与えられることが約束されながら、すぐに反古にされた政令に拠る)」なんてタイトルの曲も(歌っているのはオスカー・ブラウン・ジュニア)。♪世界中でアメリカだけが僕のような貧しい男でも夢を持つことが出来る、と歌われる希望に満ちた曲「Only in America」も、録音された63年当時は黒人グループのドリフターズが歌うのは皮肉すぎるということなのかお蔵入り(マスターが発見され世に出たのは70年代になってから)、代わりに白人のジェイとアメリカンズが歌ってヒットした、なんてヒットチャートの裏側も知ることが出来たり。

 収録曲のほとんどは60年代後半から70年代初頭に録音されたもので、あの時期のソウル・ミュージックが持つピンと張りつめた空気を感じることができるものばかり。スペインのポップ・トップスがヒットさせた「Oh Lord, Why Lord」も、パーラメントがカバーするとたちまちそういうメッセージ性を持ってしまう(と解釈される)点も面白い。R&Bをシリアスに聴きつめるタイプの音楽ファンであれば、大変聴き応えのあるアルバムではないかと思う。

 この手のメッセージ性の強いコンピレーションばかりでなく、超お気楽なCDも出すのがエイスのいいところ。「Change Is Gonna Come」と同時にリリースされた「Girls Girls Girls」のテーマは“タイトルに女の子の名前が入るオールディーズ集”全28曲、オールディーズの基本ですな。「Barbara Ann」「Oh! Carol」「Jo-Ann」「Gloria」・・お馴染みのナンバーがずらり並んでおり目新しさはないが、これはあくまでも基本ということで。ダラス・フレイジャー1965年のヒット「Elvira(80年代にオークリッジ・ボーイズが大ヒットさせたあの曲のオリジナル)」の収録は比較的珍しいか。

 珍しいといえばこのCDはかなりの数ステレオ・バージョンが収録されているので、その方面のマニアには無視出来ないコンピレーションではないかと思う。オールディーズ入門者には“基礎体力向上用”として、是非一聴を勧めたい1枚。
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2007年03月04日

Portrait of Carmen - Carmen McRae (Atlantic)
Abraham, Martin and John - Dion (Ace)

Portrait of Carmen - Carmen McRae Abraham, Martin and John - Dion

History of Rhythm & Blues アトランティック・レコード設立60周年を記念して、このところ同社が世に送り出した名盤の紙ジャケ化が進んでいる。レコード会社が節々に記念盤をリリースするのは大変よいことで、僕もかつて同社の40周年を記念してリリースされた「アトランティックR&B」シリーズでR&Bの魅力に気づかされた一人だし、僕より一回りくらい年長の音楽ファンに話を聞けば、同社がアナログ時代にリリースした「History of Rhythm and Blues」シリーズで開眼した、なんて話題も出る。恐らく今回の再発シリーズで初めてアトランティック・レコードの音楽に触れ、その後の人生を大きく狂わされる(?)10〜20代の音楽ファンも少なからず出現するのではないかと思う。先日このアトランティックの紙ジャケシリーズを出している会社の方にお会いする機会があり、「来年は絶対ワーナー・ブラザーズ50周年企画をやってくださいねっ!!」と脅迫に近いお願いをしてきた・・・。

Ertegun's New York: New York Cabaret Music ('87) 先月の「レコード・コレクターズ」誌のアトランティック特集では紹介されていなかったが、同社40周年の際にはR&Bだけでなく様々なジャンルの音楽を回顧するコンピレーションがリリースされており、中でも印象的だったのが「The Erteguns' New York Cabaret Music」というボックス。アトランティックの創業者であるアーメット&ネスヒ・アーティガン兄弟はトルコ大使館員の息子で大変な遊び人、夜な夜なニューヨークのクラブを遊び歩き、そこで出逢った有名無名のクラブ・シンガーたちのパフォーマンスを録音したテープが同社の財産となっている。実際に僕がこのボックスを手に入れたのはリリースから何年もたった90年代のことで、偶然ワゴンセールで見つけたものだったが、数多い収録曲の中でもひときわ強いインパクトがあったのがカーメン・マクレーが歌う「I'm Always Drunk in San Francisco」という曲。“アタシはいつもサンフランシスコで酔っぱらってんのっ!”と強烈な調子で始まり、最後に“お酒なんて一滴も飲んでないのにっ!”で締められるこの曲はもの凄く印象的で、以前からエラく気になっていた。今回この曲が収録されている「Portrait of Carmen」が紙ジャケ化されたので、この機会に彼女の作品を紹介しておこうと思う。

 「Portrait of 〜」のリリースは1967年。この時期の彼女はスタンダード・ナンバーと並行して当時のコンテンポラリーな作品も意欲的に取り上げており、ポップスファンにも非常に興味深い作品を残している。同作では例の「〜 San Francisco」の他にはボブ・リンドの「Elusive Butterfly」、他で名前を見かけないので正体がよくわからないDenise Di Noviなるソングライターによる「My Very Own Person」と「Boy, Do I Have A Surprise for You」の4曲がそれに当たるのだが、この前後に発表された作品にはより興味深い作品が数多く収録されている。今回の主題はこちらの方。

For Onve in My Life - Carmen McRae ('67) Sounds of Silence - Carmen McRae ('68) Just a Little Bit Lovin' - Carmen McRae ('70)

 まずは67年の春に録音された「For Once in My Life」、これがいきなり凄い。表題曲はスティービー・ワンダーなどのヒットで知られる曲だが、これは幾分クラシック・ポップ的雰囲気をたたえているので違和感はない。しかし驚かされるのは「Don't Talk」と「I Just Wasn't Made for These Time」の「Pet Sounds」ナンバー2曲の収録、これが素晴らしくて暫く何回もリピートして聴き続けていたくらい。他にもバフィ・セント・メリーの「Until It's Time for You to Go」、バカラック・ナンバー「The Look of Love」、更にビートルズの「Got to Get You into My Life」と、どれも大変ユニークな仕上がり。

 続いて翌68年にかけて録音されたのが「The Sound of Silence」、表題曲はいわずと知れたサイモン&ガーファンクル・ナンバーで、これ自体はちょっと荒っぽい録音で感心しないが、他にはジミー・ウェブの「McArthur Park」、デラ・リーズなどのヒットで知られる「And That Reminds Me」が素晴らしく、驚くことには「Don't Go Away」「Can You Tell」とマーゴ・ガーヤンの作品が2曲取り上げられている!一体どういうコネクションで彼女の作品がマクレーに渡ったのだろうか?不思議でしょうがない。

 この“コンテンポラリー路線”の最後になったのが、69年に大半が録音されたアルバム「Just A Little Lovin'」。これはマイアミ録音でプロデュースはアリフ・マーディン、バック・ミュージシャンはディクシー・フライアーズというもはやジャズの範疇を超えた作品で、知られざる名盤といっていいだろう。表題曲はダスティ・スプリングフィールドも録音していたナンバー(更に「Breakfast in Bed」も収録)で、曲の共通性もあるがこのアルバムはダスティの「Dusty in Memphis」とアレサ・フランクリンの「Rock Steady」を足して2で割ったような雰囲気を持っている。他にはビートルズの「Here There and Everywhere」「Carry Thst Weight」「Something」、トニー・ジョー・ホワイトの「I Thought You Knew Well」「I Want You」、スパイラル・ステアケースの超スウィンギーな「More Today The Yesterday」、ローラ・ニーロの「Goodbye Joe」・・と、全曲書き出してしまいそうなくらい素晴らしい内容。ジャズファン以外のリスナーに、幅広く存在を知って欲しい作品である。

 文章が長くなったので、いい加減終わりにしたくなってきた。あとひと頑張りしてアトランティックとは何の関係もない1枚、ディオンが1968年にリリースしたセルフ・タイトルアルバムが久しぶりに再発されたので紹介しておこう。60年代半ば〜後半にかけてドラッグ問題に悩まされキャリアを中断していたディオンが古巣ローリーと再契約し「Abraham, Martin and John」が起死回生のヒットとなったこのアルバムが最初にCD化されたのは1994年のことで、あれから10年以上たってしまったことになる。個人的にこのアルバムは本当に好きな作品で、醸し出される“アシッド感”がたまらない。表題曲もいいが特に好きなのがジミヘンの「Purple Haze」をアシッド・フォーク調に料理したバージョンで、これは何度聴いてもいい。

Wonder Where I'm Bound - Dion ('69) 他にも彼が敬愛するボブ・ディランとフレッド・ニールの作品をメドレーにした「Tomorrow is A Long Time/Everybody's Talkin'」、レナード・コーエンの「Sisters of Mercy」、何故かフォー・トップスの曲を取り上げている「Loving You is Sweeter Than Ever」、どれも大変味わい深い。こういうアルバムはいつでも入手出来るよう、今後は廃盤などにせずプレスし続けて欲しいものだ。あとは彼が64〜65年にかけていち早くフォークロックに取り組んだアルバム「Wonder Where I'm Bound」の紙ジャケ化、ディオンに関してはこれだけが残された課題だろうか?
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2007年03月03日

Gary Walker & The Rain Album No.1 (Philips/Universal)
Looking Back with Scott Walker (Ember/AMR Archive)

Gary Walker & The Rain Album No.1 Looking Back with Scott Walker

 1968年、我が国洋楽界のトップアイドルといえばウォーカー・ブラザーズ、わけてもスコット・ウォーカーの人気は凄まじいものがあったという。アメリカ人である彼らは何故かイギリスで爆発的な人気を博し、67年には解散してしまうのだが、日本で彼らの人気が高まったのは解散が既に決まっていた67年になってから。ファンの熱意は大変なものがあったようで、68年早々に不仲で解散したはずの3人が純粋に金のために日本だけで再結成公演を行ったというエピソードが残されているほど。

Twinkie Lee - Gary Walker ('67) 当時の洋楽チャートを調べていて、ずっと謎だったのがメンバーの1人ゲイリー・ウォーカー67年のヒット「Twinkie-Lee」。もの凄く単純なR&Rナンバーで、彼らはグループ結成前もレコーディング経験があるので、もしかしたら過去の録音が便乗でリリースされヒットしたのか?なんてことも考えたが、この録音のプロデュースはスコットが行っているそうで、ということは解散後のメンバーにスコットが塩を送った作品なのか、と、出来の善し悪しはともかくとして一応納得することにした。

恋の朝焼け/ゲイリー・ウォーカー&ザ・カーナビーツ('68) で、そのゲイリー・ウォーカー。彼はウォーカー兄弟(実際に血のつながりはない)の中でも特に熱心に日本でプロモーションを行った人で、再結成公演時やその後もGSのカーナビーツと共演シングルを録音したり、TV番組「ビートポップス」に出演して「Twinkie-Lee」を披露したりと、かなりのサービスぶりだったという。その彼が結成したバンドが「レイン」で、数枚のシングル発表の後69年に日本のみでリリースされたのがこの「アルバムNo.1」。

 レインには後にバッドフィンガーのメンバーになるジョーイ・モランドが参加していたそうで、それが後年このアルバムの評価を高めているのだという。「Twinkie-Lee」を聴く限りゲイリーに音楽的才能を求めることは殆ど無理だと思うのだが、にもかかわらずこのアルバムは予想に反してなかなかの内容。いわゆる“ポップ・サイケ”もしくは“パワーポップ”と言えばいいのか。ニューロック・テイストもそこかしこに散りばめられ、69年という時期を考えるとこのサウンドはやや時代遅れなのかも知れないが、今となってはそれも気にならない。ゲイリーも侮れないなぁ、とグループメンバー序列の再検討も考えてみたり。

 取りあえずはこのアルバムの価値ある復刻を評価したい。なお一応書いておくと、このアルバムには「Twinkie-Lee」は収録されていない。入れてくれてもいいのに!更にいえばその後リリースされたシングル「Come In You'll Get Pneumonia」の収録もなし。オリジナル・スタイルの復刻に拘るのもいいが、ボーナストラックもちょっと考えて欲しいなー、というのが正直なところ。あと当時を知る人が読んでいたら教えて欲しいのだが、この紙ジャケの内側にのり付けされている歌詞カード、この貼り付き具合も当時を忠実に再現したものなのだろうか?

Take It Easy with The Walker Brothers Portrait - The Walker Brothers Images - The Walker Brothers The Walker Brothers in JapanScott 1 - Scott Walker Scott 2 - Scott Walker Scott 3 - Scott Walker Scott 4 - Scott Walker

 当時日本でリリースされた彼らのアルバム及びスコットの初期のアルバム(スペースの関係で載せていないが、彼の5作目「Til The Band Comes In」も紙ジャケ化されている)も同時に紙ジャケでリリースされているので、ファンはまとめて入手しておいた方がいいだろう。中でも「In Japan」の復刻は貴重だと思うので、後悔しないためにも早めの手配を。

 さて、もう1枚の方は今回のユニヴァーサルの紙ジャケシリーズとは別に復刻されたもの。スコットはウォーカー兄弟結成前に「スコット・エンゲル」として50年代後半から60年代前半にかけてかなりの数のレコーディングを残しており、それらの音源が人気絶頂期の67年にまとめられたのが「Looking Back with Scott Walker」。当時まだ10代だった彼に例のバリトン・ボイスを期待するのは無理な話で、このCD(アルバムに13曲のボーナストラックが追加された徳用盤)で聴ける音楽は“スコット”ではあっても“ウォーカー”のそれではない。当時彼はエディ・フィッシャーに大変可愛がられていたそうで、そういう点を考えるとこれらの録音はフィッシャーの少年版と解釈することも出来るし、当時の同世代アーティストでいえばフランキー・アヴァロンの亜流という評価も出来るのかも知れない。

If You Go Away - John Walker ('67) ウォーカー・ブラザーズのファンにとっては、よほどのマニアでない限り必要のないCDだが、純粋な“オールディーズ・ファン”であれば結構楽しめるピュア・ポップ作品集ではないかと思う。あともう1枚行きがかり上紹介しておくと、ウォーカー兄弟の残る1名、ジョンのアルバム「If You Go Away」も、数年前にドイツでCD化されているので、物好きな方は探してみては。ジョンが下手クソなくせに気取りまくってスタンダード・ナンバーを歌ってみせるこの“ダメ男アルバム”は結構中毒性があって、実は僕は大好きだったりする。本当に物好きな人限定ではあるが、こっそりお薦めしておきたい。
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2007年03月02日

Bonnie Dobson (Rev-Ola)
Good Morning Rain - Bonnie Dobson (Rev-Ola)
Bonnie Dobson (Vocalion)

Bonnie Dobson ('69) Good Morning Rain - Bonnie Dobson Bonnie Dobson ('72)

 これまであまりその名を知られることのなかったアーティストに、突然スポットが当てられるのが再発CDの世界。昨年後半から立て続けにアルバムが復刻され、このところ断然気になる存在になってきたのはカナダのシンガーソングライター、ボニー・ドブソン。

 60年代後半に様々なアーティストによってカバーされた「Morning Dew(ルルが68年にシングルとしてリリースしたバージョンが最も有名な他、グレートフル・デッドのライブ・レパートリーとしても知られる)」の作者としてロック史に名を残す彼女は50年代後半より活動を続けており、「Morning Dew」もヒットチャートに登場する10年も前から歌い続け、フォーク界では早くから知る人ぞ知るナンバー(手許の音源を確認したら、フレッド・ニールがヴィンス・マーティンと共演した1964年のアルバムで取り上げていた)になっていたようだ。60年代前半に何枚かのアコースティックなアルバムを発表していた彼女はその数年後に起こった「Morning Dew」カバー合戦により再注目されRCAと契約、同社から69年と70年に発表した2枚のアルバムがRev-Olaから復刻された。

 女性フォークシンガーとしては典型的ともいえるソプラノ・ボーカルを聴かせる彼女の歌声は、ジュディ・コリンズほど主張は強くなく、シェルビー・フリントほど儚気でもなく・・といった感じ。69年にトロントで録音されたセルフ・タイトルアルバムはゲス・フーのアルバムなどを手がけたジャック・リチャードソンのプロデュースで、全編ストリング・アレンジが施された“ソフト・ロック”な仕上がり。彼女の自作曲は全12曲中5曲で、残りはフォーク系のよく知られた曲とポップ系のナンバーで占められている。「Morning Dew」を別とすれば、当時シングル発売されたという「I Got Stung」や力強いラブソング「I'm Your Woman」、イギリスのロックバンド、パルプのジャーヴィス・コッカーがリミックス・アルバムで取り上げているという「Winter's Going」あたりが印象に残るか。バンド・サウンドもなかなかよく、時折登場するシタールの音色もこの時代ならではの雰囲気を醸し出している。

 続いてリリースされた「Good Morning Rain」はナッシュビル録音だが現地のミュージシャンは使わず、カナダのバンド・メンバーを引き連れての制作。彼女の音楽性という点では、ポップ寄りにかなりとっ散らかった印象の前作よりこちらの方がよく表現出来ているのだと思うが、演奏の“グルーヴ感”では前作が勝るか。当時デビューしたばかりのシンガーソングライター、ラルフ・マクテルの作品を3曲取り上げているのが興味深く、「Streets of London」は同じ頃録音されたメリー・ホプキンのバージョンよりポップな仕上がり。

 あと1枚は彼女がRCAとの契約を終え、72年にイギリスで制作したアルバム(再びセルフ・タイトル)。こちらは同郷のソングライターであるゴードン・ライトフットとイアン&シルヴィアの作品数曲を除きすべてがトラディショナル・ナンバーで、オール・アコースティックなスタイルで演奏されている。彼女の基本的な演奏スタイルはこちらの方で、RCAの2作は恐らく彼女のキャリアでは異色作なのだろう。もはやソフト・ロックではないが彼女のソプラノ・ボーカルを楽しむ上ではこのアルバムが一番の内容。聴きながら幾許かの退屈さを感じてしまうのも正直なところだが・・。
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