2006年10月27日

Hard Workin' Man: The Jack Nitzsche Story Volume 2 (Ace)
The Complete Phil Spector Sessions - The Paris Sisters (Varese Sarabande)

Hard Workin' Man: The Jack Nitzsche Story Volume 2 The Complete Phil Spector Sessions - The Paris Sisters

 待望のジャック・ニッチェ作品集第2弾の到着。昨年発売された第1弾と比較しヒット曲は少なめ、よりマニアックな選曲になっている。

Hearing is Believing: The Jack Nitzsche Strory 1962-1979 第1弾を聴いた時も思ったが、ジャック・ニッチェは常に“人のつながり”で仕事をする傾向があり、その一番有名な例がフィル・スペクターとの一連の仕事になる訳だが、他にも60年代後半に登場した新しい才能、タートルズの「Happy Together」で成功したソングライターコンビ、ゲイリー・ボナーとアラン・ゴードンの2人にレーベルを超えてレコード制作につきあったり、エヴァリー・ブラザーズに作品を持ち込んできた若き日のニール・ヤングを気に入り、その曲を「俺がアレンジしてやるから自分で録音してみろ。」と勧めたり(それがアルバム「Buffalo Springfield Again」の中でも最高の1曲である「Expecting to Fly」になった)と、ロック史を変えるような派手な行動こそないものの、要所々々で地味ながらポップス・マニアには大変興味深い仕事を多数残している。

 このCDのベスト・トラックを挙げると、後にジーン・ピットニーが取り上げヒットを記録するフランキー・レインの「I'm Gonna Be Strong」やタミー・グライムスの「Nobody Needs Your Love More Than I Do」、ティミ・ユーロの「Teardrops 'Til Dawn」やボビー・ヴィーの「Like Someone in Love」などの“ゴールデン・ポップス系”、もうちょっと時代が進むとエヴァリー・ブラザーズがバッファロー・スプリングフィールドをカバーした(当時は未発表に終わった)超陰鬱な「Mr. Soul」、一般にはロッド・スチュアートの名唱で知られる「I Don't Want to Talk About It」のクレイジー・ホース版など。

 今回のCDで目につくのは今回初出の未発表音源の数々で、これらはレコード会社売り込みのためにデモとして録音した(でもサウンドはかなり立派)なものなのだそう。その多くに「ジャック・ニッチェ・エステート」のクレジットが入っており、彼の遺族が音源を管理している様子。もしかしたらこれは新しい“金脈”の発見なのかも知れないね。エイス・レコードには今後彼の倉庫を徹底的にさらってもらって、これまで知られることのなかったアメリカン・ポップスの秘宝を次々とCD化して欲しいところ。

The Paris Sisters with Phil Spector もう1枚はすべてのオールディーズ・ファンが待ち望んでいたパリス・シスターズのグレッグマーク音源集。“究極のガールグループ”と言っていいかも知れない彼女たちの成功の裏には若き日のフィル・スペクターの存在があり、1961〜62年にかけて発表した5枚のシングルはいずれも彼がムードたっぷりに仕上げている。「I Love How You Love Me('61米5位)」や「He Knows I Love Him Too Much('62米34位)」といった古典中の古典は勿論のこと、シングルB面曲に至るまで駄曲なし。全10曲プラス新規に制作された「I Love 〜」のステレオ・ミックスと収録曲は少ないが、オールディーズ・ファン必携のCDであることに変わりはないだろう。

The Paris Sisters Sing Everything Under The Sun!!! ('67) ライナーノーツによればこれらに加え当時アルバム1枚分の録音もスペクター制作で完了していたものの、彼が新レーベル「フィレス」立ち上げのため現場を離れてリリース計画が頓挫、アルバム音源は現在まで未発表のままになっているのだという。今回はこれらのCD収録を期待していたのだが、テープの所在がわからないそうで(恐らくスペクターの手許にあるのだろう)これもスペクターの死後ヒョコっと出てきたりしてくれることを祈るばかり(オールディーズ・ファンは長生きしないと・・)。彼女たちの録音であと未CD化は66年のキャピトル録音とグループ解散後にプリシラ・パリスが発表したソロ・アルバムくらいか。そこら辺も是非いずれ。
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2006年10月25日

An Audience with The King of Wands - Gale Garnett & The Gentle Rein (Sony Music Direct)
Sausalito Heliport - Gale Garnett & The Gentle Rein (Sony Music Direct)

An Audience with The King of Wands - Gale Garnett & The Gentle Rein Sausalito Heliport - Gale Garnett & The Gentle Rein

 1964年に日本でもヒットを記録したポップスにゲイル・ガーネットの「太陽に歌って(We'll Sing in The Sunshine)」という曲があった。アコースティックなフォーク調の佳曲で、今も懐かしく思い出す音楽ファンの方もおられると思うが、彼女のヒットチャート上のキャリアはこの年で終了。多くの人々にとって彼女は「一発屋」として記憶の奥深くにとどめられている。

We'll Sing in The Sunshine - Gale Garnett ('64) 今回の主役はそのゲイル・ガーネット、彼女のその後のキャリアの話。「初恋の女の子が高校進学後どうなってしまったか?」という話は、大概「知らなければよかった・・。」という展開になるものなのだが、今回もそれに近いような話になってしまうかも・・。歌手活動の傍ら女優としても活躍していた彼女はそのキャリアに助けられたのだろう、後続のヒット・シングルがないにもかかわらず67年までにRCAに6枚ものアルバムを残し(個人的にはこちらの方が気になる)、翌68年にはコロンビアに移籍。当時の音楽シーンはジェファーソン・エアプレインの成功に端を発した“紅一点バンド”花盛りの時代で、彼女も「ジェントル・レイン」なるバンドを率いて再デビューを果たした。その第一弾である「An Audience with The King of Wands」はジャケ写で披露されている彼女の艶かしいニット地のミニドレス姿が印象的(海外の音楽サイトを見ていたら「ニット好きにはたまらん!」みたいなことが書いてあって笑った)、肝心の中身はこの時期にありがちなラーガ・ロックナンバー「Breaking Through」で幕を開ける典型的なB級アシッド・ロックアルバムで、ガーネットのボーカルはかつての儚気な可憐さは何処へやら、ハスキーな地声でシャウトしており「太陽に〜」の面影はない。収録曲にもこれといって耳を惹く作品はないし、正直いって最後まで聴き通すのが辛い・・。

Beyond The Valley of The Dolls Original Soundtrack ('70) アルバムの所々にはオーケストラが使用された短いインタールードが何曲か挿入されていて、これがバンドのシンプルな演奏と相容れない印象で少々違和感を覚える。西海岸のロックバンドのアルバム、というよりはハリウッドでねつ造されたガレージ・ロックとイージーリスニングが混在した「Beyond The Valley of The Dolls」のようなサントラにテイストは近いか(それは逆にほめ過ぎ??)。続いて翌69年にリリースされたセカンド「Sausalito Heliport」のジャケ写では、彼女はなんとレザーのミニドレス姿を披露!!この手のマニアっているのかね・・?バンドのメンバーが一新されサウンドはタイトに引き締まった感じ、ただゲイル・ガーネットにいくら熱くシャウトされても、こちらが求めているものがそうじゃないからどうしても気持ちが醒めてしまうのだが・・。バンドの演奏はビッグ・ブラザー&ホールディング・カンパニーを達者にしたような印象で悪くはないんだけどね。こうなるともう聴き手の僕の方が悪いということなのか。。

 結局ジェントル・レイン名義のアルバムは売れるはずもなく、これ以降彼女はレコーディング活動をやめてしまったようだ(女優業は現在も継続中)。今回のCDは「太陽に〜」のガーネットが好きな音楽ファンには到底お勧めできないが、B級サイケ・ファンだったら結構いけるかも。ただし薄口だけど。あと“ニット・フェチ”にも強くお勧め。ジャケ写だけだけど。
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2006年10月23日

Pamela Polland (Sony Music Direct)
Beached - Ricci Martin (Sony Music Direct)
Sanctuary - Celestium (Sony Music Direct)

Pamela Polland Beached - Ricci Martin Sanctuary - Celestium

Gentle Soul ('67) このところソニーの紙ジャケシリーズでは超マニアックな作品リリースが続いていて、ついていく方は大変。10月もソフト・ロック系の知られざるアルバムが何枚か発売されたのでまとめて紹介しておこう。まずパメラ・ポランドは1968年にテリー・メルチャーのプロデュース、ジャック・ニッチェのアレンジでコロンビア・レコードからアルバムを発表したアシッド・フォーク系のグループ、ジェントル・ソウルのメンバーだった女性。ヴァン・ダイク・パークスまで動員され幻想的なサウンドに仕上げられた彼らのアルバムを未入手の方は、今回の紙ジャケ化を機会に是非とも聴いてみていただきたいが、グループ解散後ジョー・コッカーのマッド・ドッグス&イングリッシュメンツアーに同行し、その後再びコロンビア・レコードと契約した彼女が72年に発表したこのアルバムも無視できない内容。

Miss Abrams and The Strawberry Point 4th Grade Class ('72) アルバム制作当時彼女はカリフォルニアのミル・ヴァレーに居を構えていたそうで、このアルバムではカリフォルニアらしいライトでアコースティックなサウンドと、マッド・ドッグス〜時代の名残を感じさせる南部ロック風のサウンド両方を味わうことが出来る。ミル・ヴァレーというとかの地の女性教師が小学校の生徒たちを率いて発表した「Miss Abrams and The Strawberry Point 4th Grade Class」という奇跡的なポップス名盤が生まれた地でもあるのだが、それと比較しポランドのアルバムでは遥かに成熟した女性の世界観や恋愛観が示されている(当たり前か)。彼女の歌やサウンドは既にソフト・ロックの範疇を超えており、むしろ女性シンガーソングライターものの隠れた名盤、という捉え方がしっくりくるだろう。彼女はデビュー前からジャクソン・ブラウンや後のイーグルスのメンバーたちと深い交流があったそうで、その手の“アサイラム系”作品がお気に入りであれば必聴の作品といえる。個人的にはアルバム後半のより落ち着いた雰囲気の何曲かが特に胸に滲みた。今も都内に何軒か残っている、70年代の雰囲気を濃厚に漂わせた音楽バーでお酒を飲みながら聴いたら、より心に響くアルバムではないかと思う。

California U.S.A. - VA 次のリッキー・マーチンは勿論「ラテンの貴公子」の彼ではなくディーン・マーチンの息子で、60年代に活躍したディノ、デシ&ビリーのディノの弟。ハリウッドのセレブ界に育った彼は当地のミュージシャンたちとも交流が深く、77年に発表したこのアルバムはビーチ・ボーイズのカール・ウィルソンとディノ〜のメンバー、ビリー・ヒンチが全面的にプロデュース。僕が彼の作品を初めて聴いたのは60〜70年代に生まれたビーチ・ポップ系の知られざる名曲をコレクトした「California U.S.A.」というコンピレーションで、このアルバムではユークリッド・ビーチ・バンドなど他にも色々ユニークなアーティストを知ることが出来大変有り難かったのだがそれはおいといて、ここに収録されていた「Stop Look Around」で聴ける、カール・ウィルソンというよりはブルース・ジョンストンに近い声質(実際彼は60年代末にジョンストンが一時グループを脱退した際、後釜として加入を要請されたことがあるそうだ)の彼の歌がすっかり気に入り、随分長いこと愛聴していたものだった。今回初めて聴けたアルバムは全曲がマーチンの自作曲(1曲のみカールが共作者としてクレジットされている)、全編通してテイストは甘口で、このアルバムと同年に発表されたジョンストンの「Going Public」にカールのR&Bテイストが若干加わったような雰囲気。ビーチ・ボーイズマニアに限らず、ウェスト・コースト系ポップスがお気に入りの方であれば聴いてみて損をした気分には絶対ならないだろう。

 最後のセレスティアムは、ビーチ・ボーイズ人脈でも語られることの多いプロデューサー、ゲイリー・アッシャーが84年に発表したアルバム。このCDが発売されるまで存在すら知らなかった作品だが、結論からいえば知らないままでよかったのかも。ボーカルにトム・ケリーというスタジオ・シンガーが起用され、シンセサイザーを多用したサウンドで仕上げられたこのアルバムの内容は一言でいえば「産業ロック」。AORとかその手の音楽に詳しい方であれば興味深いミュージシャンの参加クレジットを見つけることが出来るのかも知れないが、僕には全く興味のないこと。やっぱり知らない作品は、一度は視聴してみてから買った方がいいのかも知れない。。
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2006年10月09日

Singles As & Bs - Leo Sayer (Repertoire)

Singles As & Bs - Leo Sayer

 70年代イギリスを代表するヒットメーカー、レオ・セイヤー。日本では一昨年にオリジナルアルバムが紙ジャケ化されたりもしたが、音楽ファンの反応は今ひとつ。全盛期に残した幾つもの印象的なヒット曲は、近年あまり振り返られる機会はない。

The Show Must Go On - Leo Sayer ('73) 先日ドイツで彼が70〜80年代にリリースしたシングルのAB面曲を集めた3枚組CDが発売された。アメリカではスリー・ドッグ・ナイトが取り上げたことで話題となった「The Show Must Go On('73英2位)」から90年の「Cool Touch」まで全61曲、ヒット曲の殆どは1枚目のCDに収められており、残りの2枚にはB面曲やあまり成功しなかったA面曲がずらりと、更に深いレオ・セイヤーの世界を味わうことが出来る構成になっている。アメリカでは突出したヒット何曲か以外は地味な印象があるが、本国イギリスでの人気はかなりのものがあり、70年代にリリースしたシングルの殆どは全英チャートのTOP10入りを果たしている。

You Make Me Feel Like Dancing - Leo Sayer ('77) 彼の作風を簡単にいうと、エルトン・ジョンを更に繊細にした感じのポップロック、だろうか。ハイトーンで時にファルセットも多用してのユニークなボーカルスタイルが彼の最大の特徴だが、初期のヒットの殆どは彼自身のペンによる作品でもあり、ソングライターとしてのセンスにも改めて注目したい。「You Make Me Feel Like Dancing('77米1位/英2位)」、「When I Need You(同年米1位/英1位)」など誰でも知っている大ヒットの他、シングルB面曲では意外にロック色の強い彼の一面を知ることが出来るし、またカバー作品ではボーカリストとしての彼の類いまれな才能を堪能、ビートルズの「Let It Be」、バディ・ホリーの「Raining in My Heart」、ボビー・ヴィーの「More Than I Can Say」などいずれも作品に新たな生命が吹き込まれている。

 ボリュームの割に価格も安いし、70年代ポップスの基本アイテムとして長くカタログに残って欲しいCDだ。

Leo Sayer Chartgraphy 1973-1986
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2006年10月08日

日本のジャズ・ソング 〜戦前編・創世記のジャズ〜(Columbia/Bridge)
日本のジャズ・ソング 〜戦前編・二世ジャズシンガー川畑文子〜(Columbia/Bridge)

日本のジャズ・ソング 〜戦前編・創世記のジャズ〜 日本のジャズ・ソング 〜戦前編・二世ジャズシンガー川畑文子〜

 ここ何ヶ月か、月1回江東区の文化センターで催される「昭和歌謡大全」なる講座に通っている。日本の歌謡曲の歴史を戦前から戦後の黄金期まで様々な視点から紹介していくもので、毎回著名な評論家等を招いて時代々々のヒット曲、隠れた名曲を聴かせてくれている。回によっては講義形式ではなく、声帯模写の白山雅一師と落語の柳亭市馬師が2時間自慢ののどを披露し合ったり、端唄のお師匠さんやジャズ・シンガーを呼んで実演してもらったり・・と、バラエティに富んだ内容で毎度非常に楽しい。仕事の都合でどうしても行けない時もあるが、年末までのあと数回、時間をやりくりしてなんとか通いつめたいと思っている。

 この講座の8月の回に登壇されたのが、ポピュラー音楽評論の世界では長老格の瀬川昌久氏。この時は実演も交えて戦前〜戦後の洋楽色の強いポップスを、服部良一作品を中心に聴かせてもらったのだが、その時の資料に折り込まれていたチラシで発売を知ったのが「日本のジャズ・ソング」シリーズ。これは氏が中心となって戦前のジャズ・ソングを80曲あまり選曲し、1976年に発売されたアナログLP5枚組のCDによる復刻で、今回はこれに作品を追加し全6枚のシリーズとして発売される模様。第1回発売分の2枚が届いたので、早速紹介させてもらおう。

シング・シング・シング 〜昭和のジャズ・ソング名唱選1928-1962〜 戦前のジャズ・ソングを集めたCDというと、数年前にビクターから出た「シング・シング・シング 〜昭和のジャズ・ソング名唱選〜」というコンピレーションがあり(こちらも瀬川氏の監修)、作品毎のエンターテインメント性の高さに驚かされたものだったが、今回のシリーズ第1集「戦前編・創世記のジャズ」はそれのコロンビア編といった感じの内容。“日本語のジャズ・ソング第1号”として名高いのは昭和3年にリリースされた「青空」と「アラビアの唄」のカップリングで、二村定一の独唱によるバージョン(こちらはビクターからのリリース)が有名だが、実はその約半年前に二村が天野喜久代とデュエットで吹き込んだものが一足早くリリースされており(この時のタイトルは「あほ空」)、このCDはその時に吹き込まれた4曲(あとの2曲は「アディオス」と「ヴァレンシア」)で始まっている。当時「ジャズ・ソング」の解釈にはレコード会社によってかなり差があったようで、聴き比べてみると(選曲の問題もあるのかも知れないが)ビクターの方が幾分洗練された雰囲気。逆にコロンビアの方はより日本人の感性寄りに「ジャズ」を強引にねじ伏せた感じの作品が多く、また別の意味で興味を惹かれる。

 しかしこの「青空」と「アラビアの唄」のカップリングというのは象徴的で、「夜となる頃(こーろ)/唄を唄おうよ」と洋楽ポップスの基本である“フレーズ毎に韻を踏む”行為に果敢に挑戦した「アラビアの唄」、そして♪狭いながらも楽しい我が家〜と数十年に一度クラスの名(迷)訳詞を生んだ「青空」と、我が国のポップスは随分と高いレベルから出発したんだなぁ、と改めて思わされる。同じく昭和3年に録音されたフランス産の「ティティナ(チャップリンの「モダン・タイムス」に使用されるのはこの8年後のこと)」の素っ頓狂なコーラスのエキゾチックさは今聴くと胸がドキドキするような奇妙さがあるが、欧米の音楽ファンが聴いたらよりショッキングに聴こえるのではないだろうか。

 他にも♪私はあの娘が大好きよ〜の「フウ」、♪都を、十里ばかり離れて〜の「都はなれて」など、当時なりの“日本語でリズム感を出す”試みが面白く、聴いててゾクゾクさせられる瞬間が幾つもある。個人的には女性ソプラノ歌手があまり好みではないので(当時アメリカでもこのタイプのシンガーが全盛だったので仕方がないが)、CDの半分以上を占める天野喜久代や井上起久子の歌は、聴いてて少々キツいところもあるのだが・・。

バートン・クレーン作品集:今甦るコミック・ソングの元祖 CD後半3曲には今年の前半に単独CDが発売され、好事家の間で大変な話題となった“元祖ヘンな外人”バートン・クレーンのとっておきの3曲「酒がのみたい」「家へかへりたい」「ハレルヤ」が。“妙ちきりん”な日本語の選択センスは、現代でいえばさしずめ“ボビー・オロゴン級”。彼のCDはかなり評判がよかったようで、今回のシリーズもその好評を受けて同じレーベルがCD化を決断したのでは?と思えるほど。未入手の方はこのシリーズと併せての購入を強くお勧めしたい。

川畑文子 もう1枚は戦前のショービズ界で活躍した日系三世のダンサー/シンガー、川畑文子が昭和8〜9年に残したジャズ・ソングを16曲集めたもの。昭和7年の来日当時まだ17歳だったという彼女はそのとき既にブロードウェイの舞台での経験を持つ達者なエンターテイナーで、そのアクロバティックなダンスフィーリング溢れる歌はマレーネ・ディートリッヒ、またはパリに渡り成功を収めた黒人ダンサー/シンガー、ジョセフィン・ベーカーを引き合いに出して賞賛されたという。来日当初は日本語がまったく喋れなかったという彼女が歌う日本語の歌は、その微妙な発音がヘンに魅力的で(コニー・フランシスが歌う日本語バージョンに通じる趣)、聴いてて非常に楽しい。ライナーを読むと彼女の技量不足を指摘し、シンガーとして評価しないとの意見もあるそうだが、そういう音楽の聴き方しか出来ない人にはこのCDは不要だろう(ジョセフィン・ベーカーだって残された音源を聴く限り歌手としては大したものではないし)。彼女が持つ当時の他の女性シンガーとは全く異質の雰囲気は、むしろ戦争後20年以上経過してからシーンに登場した自由な発想の女性シンガーたち、とりわけ僕は以前人から聴かせてもらった桑名晴子がスタンダード・ナンバーばかりを歌ったアルバムに通じるものを感じた。

 以前江利チエミの音楽についてあれこれ調べていたとき「1コーラス目を英語、2コーラス目を日本語で歌うのが当時非常に斬新だった」というような記述を見かけたが、それってもう戦前にあるじゃない!とこのCDを聴いて思った。彼女はコロンビアに40曲の録音を残しているそうで、その大半を収録した2枚組のCDも以前彼女の物語がミュージカル化された時に発売されているそうだし、またミュージカル「上海バンスキング」で吉田日出子が歌いリバイバルした「あなたとならば」も残念ながらこのCDには収録されていないが、ある意味“元祖ガール・ポップ”ともいえる彼女の魅力を知るきっかけとして、現在のJ-POPファンにも是非聴いてみていただきたい1枚。え!?「こんな強かな17歳じゃ萌えません。」・・そうですか。。
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2006年10月06日

Anders & Poncia Masterworks (Brill Tone Productions)

Pete Anders & Vince Poncia Masterworks

 「オールディーズのCDは見かけた時に必ず購入」はコレクターの鉄則。「次回来た時に買おう。」とその時見送るとたちまち在庫が亡くなり、以降何年もそのCDを探し求める・・という苦い経験をお持ちの方は多いと思うが、中でも店頭で見たらとにかく入手しておかないと絶対後悔するのが「Brill Tone」もの。60年代のアメリカン・ポップス黄金期を支えた伝説的なソングライターたちの貴重なデモ録音や正規作品をほぼコンプリートにCD化してみせるこのレーベルからは、これまでにバリー・マン、ニール・セダカ、キャロル・キング、ジェフ・バリーなどの信じられないような蔵出し録音がごっそり商品化されていて、CDが出る度ポップス・マニア界は騒然、未入手の者は血眼でブツを探し求める・・という現象を何度も引き起こしている。

The Very Best of The Videls (Yesterday & Today) 今回蔵出し対象となったのは、ピート・アンダースとヴィンス(ヴィニ)・ポンシアのコンビによる作品群。フィル・スペクターのスタッフ・ライターとしてロネッツの「(The Best Part Of) Breakin' Up('64米39位)」や「Do I Love You(同34位)」、ダーレン・ラヴの「Stumble & Fall」などを生んだばかりでなく、自らもトレイドウィンズ名義のビーチ・ポップクラシック「New York's A Lonely Town('65米32位)」やイノセンスとして「There's Got Be A Word!('64米34位)」などのヒットを放ったことでも知られる彼らがそもそも出逢ったのは1950年代後半のこと、ヴァイデルズというホワイト・ドゥワップ・グループで合流した2人は「Mr. Lonely('60米73位)」のヒットを放つが、この時期の音源は既にCD化済なので今回の2枚組には未収録。この作品集は彼らがキャップに移籍しリリースした61年の録音からスタートする(以降録音年代順に収録曲を紹介)。当時の彼らはホワイト・コーラス系の王道のような作風で、オリジナル・シングルはオールディーズの世界で最も高値で取引される部類。中でも「This Year's "Mister New"」のドリーミーさは出色の出来で、多分このシングルを入手しようと思ったら、このCDを入手するより高い金額を負担しなければならないのでは??

 アンダース&ポンシアの2人はヴァイデルズ解散後プロのソングライターを目指すこととなり、契約した音楽出版会社の大手「ヒル&レンジ」で62〜63年にかけて制作したデモテープ10数曲分(勿論未発表)がこのCDまず最初の聴きどころ。録音はシンプルながら作風は“ゴールデン・ポップス”のど真ん中で、これらが聴けるだけでCDの値段分の価値がある(これで2回元をとった!?)。その後スペクター傘下で発表した「トレジャーズ」名義の作品、そしてレッドバードに移っての「トレイドウィンズ」名義(「New York's 〜」の未発表スロー・バージョンは必聴)と、ここまで徹底的に集められると、これまでの自分の努力は何だったんだ??とちょっとした虚無感にも襲われる・・。

Excursions - The Tradewinds ('67) これでCDの1枚目は終了、2枚目は66年と67年にリリースした「イノセンス」「トレイドウィンズ」名義のアルバムが中心で、大半は日本で出ているCDとダブる。何度聴いてもいいものなので、だからといって損した気にはならないのだが。なおこのCDからは彼らが「マルベリー・フルーツ・バンド」名義で録音したシングルが「作風がそぐわないから」と収録が見合わされているので、既に日本盤CDをお持ちの方も、このCDを入手したからといって慌ててそちらを売らないようご注意。“サンシャイン・ポップ”な雰囲気たっぷりのアルバム2枚分に続いてはピート・アンダース名義の名曲「Sunrise Highway」他その後のリリースもカバー。おまけにトレイドウィンズとして録音した64年の未発表作品も4曲追加収録されており、まさにお腹一杯な全64曲。

Anders 'N' Poncia Rarities 彼らが残した作品の研究は日本で以前から進められていて、かつては「Anders 'N' Poncia Rarities」なるアルバムもリリースされていたのだが、このCDのライナーにはこのことについても言及があり「ジャケット・デザインはこのアルバムに推薦文を寄せている日本のポップ・イコン、大滝詠一の作品を模したものである。」との記述も。おいおい、本当はこのCD、日本人が作ってるんじゃないのか??なんてことも思いつつ。どう考えても正規ルートで出されているCDではないので、何処で確実に入手できるかはわからないのだが、今買っておかないと絶対後悔の念に駆られることは必至。頑張ってCD屋に通いつめ、ゲットしてください。
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